森林動物学研究室担当科目

<大学院>

森林昆虫学(奇数年夏) (担当:富樫・久保田)

 昆虫は森林生態系の重要な構成要素である。このような森林昆虫について、その生活史、個体群動態、樹木と森林に与える影響などを概説するとともに講究し、森林管理について論議する。

環境動物・倫理学(偶数年夏) (担当:富樫・久保田)

 環境倫理・動物倫理に関する基本的な考え方について学ぶ。またそのような考え方にもとづき具体的な事例や関連する法令等を題材として人間が自然環境や野生動物とどのようにかかわっていくべきかを議論する。

土壌動物学(奇数年冬) (担当:長谷川元洋 森林総研 非常勤講師)

 土壌動物は生態系の分解系において土壌微生物の制御者としてきわめて重要な役割を果たし、また、地上部と同じかそれ以上のきわめて高い多様性をもち、陸上の生物多様性の大きな部分を占める。本講ではまず土壌動物の基礎的調査法や各群の分類や生態の特徴を概説し、さらに群集構造と環境との関係、環境診断技術への応用、土壌動物の生態系における生態機能、その農業への応用などに言及し、土壌動物の多様性や生態機能を様々な側面から明らかにする。

森林生態社会学(偶数年夏) (担当:久保田 3回分担)

 森林生態系は人類に多大な資源を供給してきたばかりか、その社会、文化にも大きな影響を及ぼしてきたが、一方で森林も人間活動によってその姿を大きく変えてしまった。近年の急速な人間活動の範囲拡大と技術の高度化によって急激な森林の攪乱が生じる前にも、森林生態系と人間社会の間には長い歴史の中で培われてきた相互関係が存在していた。本講義ではそのような歴史の過程で森林そのものやそこに生育する動植物、人間社会がどのようにして相互に影響しあって来たのかを解説し、これからの森林と人間活動のあるべき姿について考えてゆく。

<学部>

森林動物学(3年夏) (担当:富樫)

 森林にはさまざまな動物が棲息している。まず森林における生食食物連鎖と腐食食物連鎖を説明する。次に環境の構造から体サイズ別の節足動物の個体数の頻度分布を考える。そのあと、森林に生息する主要な昆虫類を中心にして、それらの生活史、個体数変動の特徴、繁殖様式、植物との相互関係、性比、天敵との相互関係、共生微生物との相互関係、森林における機能を具体的に解説する。鳥類の生態についても講述する。

野生動物管理論(3年冬) (担当:富樫)

 野生動物の管理にあたっては個体群増殖、食物、天敵、生息条件を明らかにすることが必要である。この講義では、まず、キクイムシの大発生によるマツの純林形成という系を紹介して管理とは何かを考える。次に非生物的環境条件に対する動物の適応を解説した後、動物の食物選択、植物の被食防御機構、動物の摂食が植物に及ぼす影響と植物による反応を主に昆虫類を材料にして解説する。

森林保護学(4年夏) (担当:久保田 6回担当)

 森林に存在する生物群集の相互関係、森林の多面的機能を学ぶことにより、森林・樹木を保護することの意義について理解を深めることを目的とする。森林では高等植物のみならず、哺乳類、鳥類などの脊椎動物、昆虫などの無脊椎動物、そして微生物などが複雑に関係しながら、生態系の機能を果たしている。しかしそれらの生物は、時に獣害、虫害、あるいは流行病という形で森林にダメージを与えることもある。これらの生物群について、生態学的特徴や機能、生物的要因による森林被害発生のメカニズムについて解説する。

集団遺伝学(3年冬) (担当:澤村京一 筑波大学 非常勤講師)

 集団遺伝学的なものの考え方は生命科学のいろいろな場面で必要になるが、生命現象のメカニズムに重点を置いた大学の講義ではあまり取り上げられることがない。本講義では、初心者が集団遺伝学の基礎を身に付けることを目標とする。最初に基礎的な遺伝学(高校および大学教養レベル)を復習し、初心者がつまずきやすい点を指摘する(教科書・参考書には間違いや誤解を招きやすい記述が多い)。その上でその延長として、集団遺伝・量的遺伝・進化遺伝の基礎を学習する。いずれも紙と鉛筆(および電卓)を用いた思考・計算が学習効果を高めることから、本講義では随所に演習を織り交ぜる。また、いくつかの古典的な研究については原著論文(またはその訳)を読むことにより、その歴史的背景を明らかにする。時間があれば、種分化遺伝子の分子機構など最新の話題についても紹介する。

動物生態学(2年冬) (担当:久保田)

 動物生態学とは、動物の個体、個体群、群集に関わる現象について探究する学問分野である。本講義では個体群生態学を中心に、主として進化学的視点から既存の学問体系を紹介し、最新の研究成果も紹介してゆく。具体的には最初に個体、個体群、種の関係、および生物の進化がどのようにおこると考えられているのかについて解説する。次に種内・個体群内の様々な現象について、主として行動生態学的な視点から解説する。さらに種間の相互関係について、資源の利用、生殖隔離などの視点から解説する。最後に生態系における動物群集の機能について紹介する。

生物の多様性と進化(2年冬) (担当:久保田 2回担当)

 地球上にはさまざまな生きものがいる。目に見えない小さいものからゾウやクジラのような巨大なものまで、また水中や地中にすむものから樹上や空中にすむものまでいる。なせ生きものの世界はこのように多様なのだろうか。どのような仕組みで多様に保たれているのだろうか。そしてどのようにして多様になってきたのだろうか。本講義では、こうした多様な生きものの世界の意味、仕組み、進化にかかわることがらを、関連分野の専門家がいろいろな角度から紹介し、考察する。とり上げることがらは、基本的な事実や概念から、最先端の研究成果にまで及ぶことになる。

昆虫と節足動物の生物学(全学自由研究ゼミナール1~2年夏) (担当:富樫 1回、久保田 1回担当) 詳細

 節足動物は,6億年前に初めて地球に現れ,はじめは三葉虫に代表されるように海の中で進化した。約4億年前に,すでに陸に上がっていた節足動物から新たに6本の脚を持つ祖先昆虫が分化し,昆虫はその後現在までに数百万というおびただしい数の種を生み出した。昆虫は,まさに地上最大の生物群である。節足動物は孵化後も大規模な形態変化を繰り返す「変態」という機能を持っているが,昆虫では変態時に翅の獲得をはじめとする劇的な形態と生態の改変を伴うようになり,「完全変態」へ向かって進化してきた。昆虫は主に植物を餌として特異的な寄生関係を結ぶようになり,翅を使った移動能力,フェロモンや音・光などによる高度な通信能力,そして効率的な繁殖能力を獲得して,陸上のあらゆる場所へ進出してきた。しかし,昆虫は天敵である鳥・蜘蛛・寄生虫・カビ・細菌・ウイルスなどと日々戦っており,その多くは戦闘に負けて死んでゆく。その厳しい戦いの結果,昆虫は敵を欺く擬態や病原体に対する高度な生体防御機能を備えるように進化した。また変温動物である昆虫および陸生節足動物には,冬の低温や夏の高温に絶えるための特殊な生理機能,すなわち休眠が見られる。さらに近年では人間の使う殺虫剤が昆虫を追いつめたが,昆虫は短期間で殺虫剤に対する抵抗性遺伝子を獲得してしまった。このようにして昆虫は多様な環境に適応し,現在の地球生態系の最も重要な構成要素となった。私たち人間の生活にとっては,ある場合には恩恵をもたらし,別の場面では酷い災厄をもたらしている。本ゼミナールでは,昆虫と節足動物の面白さと不思議について,研究の先端に立つ農学部の教官が講義する。

森の生物学:共存する森林生物(前期課程総合科目1~2年夏) (担当:富樫 2回、久保田 2回担当)

森林は,生物多様性のもっとも高い生態系のひとつである。そこでは,多種多様な植物,動物,微生物が互いに影響(相互作用)し合いながら,それぞれを取り巻く環境条件に適応して繁殖し,共存している。

森林内の植物は,取り巻く光環境や水環境に自らを適応させ,光合成により有機物を生産して,森林全体の物質収支を支えている。動物は,その植物を食べて有機物を得ている。さらに,植物や動物の遺体を分解して有機物を無機化するのは,菌類などの微生物の役目である。分解された有機物は,やがて再び植物によって有機物へと合成されていく。こうして,森林内で主役を演じる三者の間を有機物が巡っていくが,有機物の受け渡しに平行して,三者の間では,様々な相互作用が起こっている。例えばナラ類は,異なる光条件下でそれぞれの環境に適するよう,生理機能や樹形を変化させる。また,ブナアオシャチホコやスギカミキリはブナやスギの葉や幹を餌にするが,樹木は摂食を防ぐ様々な仕組みを発動して危害を抑制する。森林内には,植食性動物だけでなく,動物や菌類を捕食したり寄生したりする動物も多数生息しており,それらの間でも多種多様な相互作用が繰り広げられている。一方,林床の落ち葉や枯れ木には,腐朽菌が生息しており,有機物の分解を進めている。その他微生物には,マツタケのようにマツの根に共生して植物の生長を助けたり,逆にならたけ病菌のように様々な樹木に甚大な病害を与えたりして,直接的に樹木と相互作用するものもいる。

この講義では,このような森林で見られる樹木の環境への適応と植物-動物-微生物間の複雑な相互関係を,多面的に紹介し,解説する。

森林動物学実験(3年夏) (担当:久保田、加賀谷 他)

 森林に生息する昆虫類、土壌動物、鳥獣など様々な動物を対象に観察を行い、サンプリングによって個体群の分布状態や生息環境との関係などを調査する。また摂食実験を通して個体の成長に及ぼす餌や環境の影響などを調査する。得られたデータから正しい考察を行うための基本的な統計解析の手法を学ぶ。さらに富士癒しの森研究所やその周辺の森林において、動物やそれに起因する現象等の見学、種々の動物の調査・解析といった総合的な実習を行う。

森林動物学実験(籠坂峠〜大洞山にて)

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